なななのゆるゆる翻訳

自分が翻訳したいと思った歌詞・本だけをゆるく訳してます。

死にたいけどトッポッキは食べたい 精神科専門医の言葉

不完全さが不完全さに

 

著者が初めて録音機能を使った時が思い浮かびます。治療時間に交わした会話を家に帰って振り返りたいがうまくいかないと言い録音に対する同意を求めたでしょう。深く悩むことなく承諾しましたが治療者の言葉が録音されるという事実に私もやはり一言一言注意ぶかくなったんです。そうした中で治療の内容を本にするという企画とともに原稿を受け取りました。裸になったような気分になりほかの人がどのようにみるかに対する心配のために簡単に開いてみる勇気が出ませんでした。本が出てから読んでみて、案じたこと以上の恥ずかしさと面談家庭での悔しさ、もう少し大きな力になれなかったことに対する申し訳なさなどが混ざった自己反省が訪れました。

 しかし本の中で出会った著者の分はチャートの中の記録となった乾燥した内容とはまた違う生命力が感じられるんです。現代社会で大抵の情報を探すことはそれほど難しいことではありません。本の中に登場する薬物、うつ病、不安障害、気分不全障害等ような専門的な用語を含んでもそうです。しかし社会に様々な先入観にも関わらず患者の立場からそれに立ち向かおうと病院まで来たつらい経験に対する生々しい共有は検索ではわかりづらい部分ではないかと思います。

 普通の人と同じように不完全な一人の人間がまたほかの不完全な人のうちの一人である治療者にあって交わした会話の記録です。治療者としては失敗や悔しさが残りますが人生は常にそうであったので著者や私、そして皆さんの人生は今よりよくなる可能性があるのではないかという慰めを持ってみます。ある意味多くの挫折を経験して落胆した、不安の中で一日一日を耐えていらっしゃる、この本を読んでいらっしゃるみなさん、今まで看過していたけど本人から出ているかもしれないまたほかの声に耳を傾けてみてください。死にたい時もトッポッキは食べたいのが私たちの気持ちだから。